居合い斬りの達人でもある座頭の市(勝新太郎)は、飯岡助五郎の客分となり、飯岡と敵対する笹川繁造の用心棒・平手御酒(天地茂)に友情の念を抱きつつも対決せざるをえなくなる。 子母沢寛の随筆集『ふところ手帖』に記された市の短いエピソードをもとに、大映時代劇の旗手・三隅研次監督が手掛けた大ヒット・シリーズの記念すべき第1作。ここでの市はただ強いだけではなく、丸木橋をおそるおそる渡るなど、盲目の男という点が強調されており、暗闇の世界を生きるシニカルなアウトローとしてのキャラクターをカツシンが見事に演じきっている。彼と天地茂とのふれあいのシーンも秀逸で、それゆえにラストのダイナミックな決闘も、哀しく観る者の心を揺さぶるのであった。(的田也寸志)
キース・ジャレットの2001年日本ツアーは、従来通りのスタンダーズ・トリオによるスタンダード演奏が中心だったが、東京公演では新境地ともいえるトリオによるフリー・インプロヴィゼーションも披露した。本作はその模様をライヴ録音した堂々の2枚組。一言でいえばこのアルバム、2000年のロンドン公演実況盤である『Inside Out』の世界を拡大深化させた作品といっていいだろう。 フリー・インプロヴィゼーションというと、過激で無秩序な世界をイメージしがちだが、ここに聴かれるのはキース特有の叙情美とロマンに彩られた限りなく美しい世界。では、スタンダーズ・トリオによるスタンダード演奏とフリー・インプロヴィゼーションの違いはなんなのかということになるが、はっきりいってその違いは紙一重。素材としてのスタンダードがあるか、まったくの白紙状態で演奏に臨むか。そこが違うといえば違うわけだが、ゲイリー・ピーコック&ジャック・ディジョネットとのトリオは、もはやそうした違いさえ意識させないほどのレベルに到達している。(市川正二)
13世紀後半、後嵯峨法皇の院政時代。帝位を弟に譲り世捨て人のように過ごす後深草上皇(花ノ本寿)の寵愛を受けている四条(ジャネット八田)は、霧の暁こと西園寺大納言(寺田農)や高僧・阿闍梨(岸田森)らの愛を受け、そのつど身ごもるが、生まれた子はすべて彼女から引き離されるに至り、自らのはかない存在を痛感し……。 実相寺昭雄監督が脚本に詩人の大岡信を迎えて描いた初の時代劇映画。権力と愛欲に満ちた宮廷から、ひとりの女が自由を求めて旅立っていく姿を、無常観に満ちた映像美で描出していく。それまでのエロス三部作と比べるとエロティシズムはやや抑え目で、むしろ自由への苦難の旅立ちというモチーフに、実相寺監督の新境地をかいまみることができる。華やかな宮廷の闇を巧みに捉えたカメラと照明も素晴らしい効果を上げている。(的田也寸志)